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臭い家族

 真夜中に携帯電話が鳴った。何度目かのコールの後に通話ボタンを押す。
「ちょっと、酷いよ。なにすっとぼけてるの!」
 女王様の怒った声が聞こえた。
「えっ‥‥。あっ‥‥。ああ」
 寝ぼけたフリをする。だって、何に怒っているのかすぐにわかったから。
”家族が増えた”だなんてふざけたことを言いながら室井親子がヘビを買ってきてから3週間。私はかなり不機嫌だ。何とかバイソンだかパイソンだか知らないが、そんなことはどうでもいい。要はヘビだろう、ヘビ。
 そんなものが好きな人が存在するのは”知識”として知っていたが、私には信じられない。
 そんなのが職場にいる。平然といる。絶対におかしい。このヘビが脱走した時は「どこかで野たれ死んでいてくれ」と本心から思ったほどだ。
 こんなものに愛情を感じたりキスしたりするのは私の美意識からしておかしい。いや、それだけじゃない。このヘビの餌は冷凍された白いネズミだってさ! あり得ない。ざけんな~!!!!!」
「でも無菌室で育ったねずみだから清潔だよ」
「ああ!? それどこにあるの?」
「‥‥言わない」
「言え!」
「言わない方がお前のためだ」
 すっとぼけてるが、どうやら冷蔵庫に入ってるんだって。もう、嫌じゃ!! 
 
 いや、ヘビやネズミだからという理由からではないかもしれない。私は人間以外の生き物が苦手、というか怖い。犬も猫もあまり好きではない。たぶん幼少期のトラウマからだと自己分析している。
 私が小学生だった頃、酒屋を営んでいた両親が忙しかった時など、よく農家をやっている母方の実家によく預けられた。そこにはいろんな動物――豚や馬、牛、鶏が平然と生息していた。庭に放し飼いにされていた犬や鶏にはよく追いかけられ怖い思いをした。
 そしてある試練の時が訪れる。放し飼いにして追いかけられた鶏を「広恵ちゃんのために豪華夕食」というトンでもない理由から「1羽、絞めよう」という事態に陥ったのだ。親戚の叔父さんが鶏を殺したところは目撃せずに済んだ。が、その後逆さに吊るされた鶏の羽を「毟らないと食べさせない」という世にも恐ろしい条件をつけられた挙句、嫌がる私は庭に引っ張り出されたのだ。幼く素直な私は自分に向けられた好意に対して「嫌だ」とは言えなかった。同世代の従兄弟たちの試すような目もあった。
 仕方がないのでほんの少しの羽を毟った(今にして思えば「食べない」という選択肢もあったのかもしれないが、当時から食い意地だけは発達していたのかも)。
 それからだと思う、生き物が怖くなったのは。

 しかし奴らはそんなトラウマを理解する親子ではない。ゴールデンウイークの始め、ヘビだけではなくまたまた”家族”とやらが増えた。
 金魚が4匹。
 もちろんユウタが仕入れてきたものだ。以前から静かに存在していた数ミリという小さな海老(これはどうでもいい)に加え、水槽が3個もある。地獄のようだ。
「私は生き物は好きではない。だからこんなものの世話はするつもりはない」
 ヘビを飼い始めた時に私ははっきり宣言した。
 そして金魚を買い始めた翌日、ユウタに「カンバ、金魚が一匹死んでるよ」
 といわれ、しばらく水槽に浮かんでいる金魚の死体を見ていたが、それを処理するという積極的な行動にはどうしても出ることが出来なかった。触りたくもなかったというのが本心だ。
「見たくない」
 そして女王様が帰宅した午後には私の心の中では、金魚の死骸はすっかり「なかった」ことになっていた。現実逃避―ー本当に、すっかり忘れてしまっていたのだ。金魚が存在することも、水槽の中にその死骸があることも。
 だから普通に女王様と業務連絡などをして、とっとと帰宅してしまった。
 そして女王様が気付いた時にはもう一匹の金魚が死んでいたらしい。トータルで2匹の金魚の死骸ーー。考えるだけでおぞましい。
「カンバが嫌なのはわかったよ。やりたくなかったんでしょ? でも午前中に死んでいたことを知ってたのは、ユウタからの報告でバレている。何すっとぼけてるんだ。面倒を見ろとはいってないだろ。ただ、そのことを教えてくれないと困るんだ。部屋中臭い。酷いよ」
 でも、ここでもう一度宣言しておきたい、いや確認したい。私は室井佑月の秘書なんだから室井の面倒は見る。でも、それに付随するペットは金輪際面倒を見るつもりはない、と。
 わかったかーー!

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実は私は・・・

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