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本当の話

 昨日の夜、東京郊外の駅でナンパされた。
 本当だ。
 電車から降りてから、ずっと横にいた男の人に。
 年齢。たぶん30代後半。きちんとしたサラリーマン風。
「すみません。これから飲みにいきませんか?」
「いえ、ごめんなさい」
「こちらこそ、すみません」
 かなり丁重な感じだった。
 早速、女王様にメールを打った。
「今、ナンパされた。勝った」
 すぐに電話がかかってきた。
「うそ臭い~~」
 そういわれても本当のことは本当だ。
「あたしの同級生の友達もよくナンパされた人と付き合ってるっていうけど、それもうそ臭い。出会い系じゃないの。お前もそうだろ。それか酔っ払いのオヤジだったんじゃないの」
 違う。とっておきの話をしてやった。
「お前には言わなかったが、半年前もナンパされた。夜の7時に厚生年金会館の前で。『大阪から出張してきたのですが、この辺の店は知らないので、一緒にご飯を食べませんか?』って。もちろんその人は酔ってなかった。フフ」
「うそ臭い~」
 女王様は信じる気がないようだ。話の流れを無視するように、突然自分の自慢話になった。
「あたしの中学の同級生で出世している独身男がいたことが発覚したんだ。今度飯を食わなくちゃ」
 そうして電話は切れた。

 翌日。出社するとその同級生の情報をネットで調べていた。口元が緩んでいる。笑っているらしい。私が話しかけても聞こえないようだ。1時間ほど熱心に調べている。写真も見つかったみたいで、ニヤニヤしている。
「やだーーオジサンになったーーー」
 当たりまえだ。何年前の知り合いだ。
 最近、男の影がないからか。とうとう中学時代の同級生にまで触手を伸ばし始めるとは。悲しい。
「悲しい」という独り言が聞こえてしまったようだ。
「何いってんの!! あたしは実はもててるんだよ。お前が知らないところで。最近も救急病院に行ったら、『何かあったらいつでも力になります』って若いドクターから携帯番号とアドレス貰ったんだから。お前の友達の記者Hは私に夢中じゃ。それとお前の古い知り合いのSやAやKやIもあたしを好きに違いない。もはや奴らはあんたの味方じゃないんだよ。来年はあたしを巡っての熱い闘いが始まるかも。あんたはただのレフリー役だね」
 この女はどこまで負けず嫌いなんだろう。
 まあ、どっちでもいいけど、それにしても狭い世界には違いない。
 私は見も知らない人からナンパされたのだから。
 勝った。

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